千歳川

 春は千歳川の川下りから始まる。ゴールデンウィークの初め、雪解け水のキューンと冷たい川をカヌーやカヤックで下る。千歳川を一本やってやっと春に突入したという気分になれる。私の季節の区切り。

 夏もそうだ。お盆の頃、道外から北海道の夏を楽しむのにやってくるアウトドア仲間の夫婦や家族と日程を合わせ、必ず千歳川を下る。 札幌からも空港からも近く、私など我が家を出て三十分でフネを漕ぎ出せる。友を迎え二日続けて千歳川を漕いでも、飽きることはない。

 市街を流れる川なのにこんなに清冽な水、ゆらゆらの緑に愛らしい白い花を見せてくれるバイカモ、カヌーの水先案内してくれるマガモ。 水音をたてずに漕いでいくと、運が良ければカワセミやヤマセミにも会える。

 水底をのぞき込むと魚影がある。流速は速く、カーブの外側には根を流れにえぐられた木が倒れ込んでいたりするので、ビギナーがひとりで漕ぎ出せる 川ではないが、そんなところも、全国のパドラー憧れの釧路川源流部によく似ている。パドラーとはパドル=櫂(かい)で漕ぐ人のことである。

 この川に魅せられ、ある家族はとうとう、私たちのいつもの上陸地点に家を建ててしまった。

 千歳川はそんな川である。地元の人たちはその価値に気づきにくいかもしれない。

 カヌーやカヤックは人が動力で、爆音をたてることもなく環境にたいへん優しい乗りもの。木々に引っかかったまま放置されたテグスや釣り針を回収し ながら、静かに通り過ぎる色とりどりの水上の人を、我がまちの風景として楽しみ、訪れるパドラーをもてなす気持ちがあれば、千歳川のある街は、さらに大き な財産を得るかもしれない。

佐山さつき