愛されるコツ

 レストランで、食後に何か飲みたいと思ってメニューを見ると、そういう店にはめったに置かれないが実は自分の大好物というジュースがあり、オーダーした。

 頼んだものが運ばれてくると氷入りで、これは氷を入れると美味しさ半減なんだよな、なんて思いながらもうれしくいただいたのだが、でもやはりエスニックなこのジュースは氷なしのまったりした味が身上だしと、勘定を支払いながら差し出がましく言ってしまったものだ。

 「氷を入れない方がおいしいのではないかと思いますよ。」

 店の人は気を悪くしたようでなく、大らかに聞き入れてくれてほっとした。

 「次は氷なしでとおっしゃってくださいね。」

 パーフェクトな応対だったが、あれっ、と引っかかってしまうのがまたもや私らしい。引っかかってしまったので、なぜかと考える。

 客にそう言われたとして、そのあと私なら?

 きっと氷入りか氷なしかを先に客に尋ねるようにするか、またはメニューをわざとふたつ作ってしまうのはどうだろう。氷入りと氷なしでふたつ。その 本来の味が好きな人、冷たくあっさりといただきたい人のどちらも必ず好きな方を選ぶことができ、初めて注文してみるという客は興味をもって、どちらがどん な風な味わいか違いを尋ねてくれるかもしれない。そこに客と一瞬のコミュニケーションが成立する。誰も困らぬいいことずくめではないか。そういえば、客に 愛されるコツって意外と、経費などかからないそんなサービスにあったりするのかも。ホスピタリティかな。

 だなんて、他人事になんておせっかいな私。ついでに自分が猫以外に愛されるコツも、ちゃんと考えてほしいものだ。まったく。

佐山さつき