ここで生きる

 広告やITのプランニングを仕事とする私が恵庭に仕事場を作るつもりだとわかると、なぜここなのか、札幌にいなくては仕事にならないのじゃないかと知人たちが訝った。IT推進派で恵庭の仕事もしていた同業者さえ、やっぱり札幌でなくちゃダメだよと言う。

 「そうかな。地元で仕事する人が増えるってこと、街の元気に大事なんじゃないのかな。」

 ずいぶん前に親がいる恵庭に住まいを移していたものの、早朝に出勤し、深夜やっと帰宅する毎日を過ごしていた私は、ある日、自分が自分の住むまち のことを何も知らないことに気がついてしまったのだった。興味を引く情報がどこにあるのか、誰が何をやっているのか、面白い人たちがどこに集まるのか、て んでわからない。街を歩き回って探しても自分らしく過ごせる場所が見あたらない。ショックだった。

 それなのに事務所をこのまちに置くことを迷わなかったのは、住んでいるところが寝るのに帰る場所というだけでなく、自分が楽しく生きられる場所に したいという願いと、元気の素がないなら作っちゃおうじゃないかという無謀な開拓心が、密かに胸の中に育ったからである。根が楽天的な天の邪鬼なのだ。

 ところが、ここで生きようと決めてしまったら、すてきな人や面白い人が続々と目の前に現れ、今はこのまちの潜在能力に驚かされる。

 自分のちっぽけなパイオニア精神など、ちゃんちゃらおかしいのである。きらきらした元気の核はきっとすでにいっぱいあって、的確なコーディネートと情報発信がされるのを待つばかりなのだ。

佐山さつき