恵庭で風を聴く

 私たちにとって豊かさとは何なのだろうと思うことがある。

 深夜、札幌から恵庭に向かって走ると、国道沿いの賑やかな光がどんどん少なくなり、自分の住むまちはずいぶん暗い。それが不満なのでは 決してなくて、暗さに心からホッとするのである。

 夜もこうこうと明るい街が豊かだろうか。ちゃんと闇を感じられることは、他では欲しくとも得られない贅沢だと思えばどうだろう。

 釣り竿を持ち、漁川を遡って歩いたことがあった。放流されたばかりなのか、ちっちゃなヤマメちゃんが釣れ、可愛いパーマークを数えてリリースしながら、ここはすてきなまちだと思った。川が、魚にとってとても棲みやすそうだったから。

 花が咲く街並みは圧倒的に素晴らしいけれど、誰もがその一角に住むわけでもなく、豊かさや幸せの尺度とは言えない。経済的な豊かさは人々の努力に平等に報いたわけではなく、それが人の幸せを左右するというものでもなさそうだ。

 いったい、自分が欲しい豊かさって何だろう。

 ドラマ「北の国から」のテーマ演奏で私たちの心をふるふるさせるギタリストの坂元さんが、恵庭のイメージ曲を作ってみようと言ったとき、私の恵庭 のイメージは、誰をも包むここの空気だったり、懸命な土作りで正しい食べものを差し出してくれる意気であったり、人や子どもを守ろうと闘う力だったり、咲 き誇る花の上にも水の上にも、悩む人の上にも同じく吹く、風であった。

 あす夢創館で、坂元さんの新曲がふたつ発表される。彼の美しい曲の力は癒しではなく喚起・・・。

 だから、私たちのまちをただ讃える曲ではないと思う。人々の多様な生と豊かさへの可能性を応援する曲と、受け取るべきではないかと思う。

佐山さつき