ダイエット記念
長くスポーツをしていたのに、まったく時間が取れなくなって突然やめてしまったものだから、身体が自分のものじゃないような感覚に陥ってしまった。増えた体重をもろに膝に感じる。自分が、重い!
背筋にくらべ腹筋の退化はすさまじく、バランスが崩れて腰痛も出た。母は、私の背中がずいぶん厚くなったという。仕事服がことごとく着られなくなったが買い換えられるような身分ではない。いよいよ困ってこの夏、テニスを再開した。
大事にしまってあった粋なウエアはもうどれも着られず、スーパーで八百円のジャージを求め、見知った人のひとりもいないテニスコートへ。クラブを 紹介してもらい新入りとして修行だ。度胸もいるが、ここでやらなければ一生後悔するような気がする。楽しく走り、汗をかいて、それでダイエットできるなら ルンルンなのである。
頭の中に、スリムだった頃の自分のテニスウエア姿が甦り、さっそくスコートなんかも手配した。昔はSだったが今はきっとLでもきつめ。でも、むふふ。もうちょっとシェイプして、来年はスコート姿で颯爽とコートに立つのだ!
かくして、夏の終わりはせっせとテニスに励み、体重はさほど落ちずとも、身体の厚みは減った。来年デビューのスコートを履き鏡の前に立つ。
「ん?」
ここで、初めて気がついた。鏡に映る自分は昔のままではないということに。十歳は年を増している。体型が戻ったとして、筋力もほぼ回復したとして、十年の時計が逆転するわけではないのである。来年?歳になって、超短いこのスコートが履けるというのだろうか!
ああ、私のテニススコート。ダイエット開始記念のテニススコート。これはもしや、まさに「記念品」としてタンスで輝きを放ち続けるのかも。いやはや、とんでもなく、トホホなんである。
佐山さつき