色の名前
色を扱うのが好きだ。欲しいイメージを構築したり、デザインの目的を達成したりするのに色は重要で、どんな制作物も色彩計画は細かく指示する。スタッフにはかなりうるさいと思う。
はじめ色合わせはなかなか難しいものだが、『配色事典』という色の組み合わせを確かめられる本があり、これは誰にでも役立つ安価で優れたロングセラー。手元にあったのが見あたらなくなってしまい、色を使いこなすのが苦手だというスタッフのために買いに出かけた。
デザイン書籍のコーナーは楽しい。絵を描かないデザイナーだと豪語するのに『猫の描き方』を手に取るとなんだか描きたくなってくるし、『手作り絵 本』をながめれば、親子で参加する絵本作り講座があったらすてきかしらとその場面を想像したりする。めちゃくちゃ平和なひととき。
そして、その日のめっけもんは『カラー&イメージ』という、五年も前に出版されたカラー事典であった。まだ初版で、あまり売れていないみたい。し かし、国々にまつわる色、歴史の色、食べ物の色などの章立てに、色の名前の背景が短文で添えられた面白い構成である。中近東にまつわる色という項もあり、 どれどれとめくったが、ある色を目にした瞬間頭を打たれたようになって、その場にうずくまってしまった。
「バグダッド・レッド」は濃く暗めの赤。もともととても好きな色だ。アラビアンナイトの町のエキゾチックな夏の市場を思わせると、この本にそう書 いてある。しかし、その色の名前を目にしたとたん、襲うように身体を突き抜けていったのはなんと、鮮烈な血液と死のイメージであった。
二〇〇三年十二月。こんな時代、「バグダッド・レッド」は、悲しく辛い色の名前である。
佐山さつき