脳天気に迎春

 新年は、元旦の朝五時に苫小牧の日帰り温泉まで走り、露天風呂の湯に浸かりながらぬくぬくと初日の出を拝んで始まった。見事な旭日で、居合わせた客みんな裸で拍手だ。

 二日にはカヌーで新春千歳川ツーリング。これって酔狂以外の何ものでもないんじゃないかいと言いながら、静かな川に漕ぎ出していく。鮭が泳いでいる。まだ頑張っているんだね。

 立派な角でこちらを威嚇するオスを先頭にしたエゾシカの一団にも出会う。あんな大きな角に一撃されたらたやすくひっくり返されてしまうよと、彼らが駈けていった先を見やる。凛とした空気のなか、静かで穏やかな川下り。

 さて、私のようなちゃらんぽらんでも、いつもなら心清々しく抱負を胸に秘めてみたり、殊勝にも今年の目標なんぞを定めたりの正しい迎春をしようと するのだが、今年はまったく何も考えられなかった。殊勝にもといっても五キロ痩せる、睡眠は五時間確保、一日十五分英語に触れる、毎日最低十五分バイオリ ンを弾く、締め切り厳守、手紙を書く、本を読む、歩く・・・。私の目標なんぞいつも語るのが恥ずかしいこんなレベルで申し訳ないが、それさえ放棄した。ひ たすら脳天気で過ごすことに専念した新年の二日間である。

 ただひとつ、母の話をいっぱい聞く時間を作ろうとは思った。幼時から離れて暮らしたことも多く、快適な親子関係ではなかったし、私は母親には容赦のない娘。しかし、辛い時を共に闘ったから同志のようなものだ。その母が老いていく。

 深夜に新聞を読んでいると、眠れないと起きてくることがある。そんな夜には向こうがもう寝ると言うまでおしゃべりと愚痴につき合うのも、私にとって大事なだいじな時間となってきた。

佐山さつき